弟の白血病について。ドナーになるということ。

弟が白血病になりました。

気持ちの整理と、記録も兼ねてちょっとブログに残しておきたいと思います。
ただ、今の正直な本音を書き連ねているため、不愉快な思いをする方もいるかもしれないことは予め記しておきます。

私と弟は二人兄弟で、私は東京在住、弟は現在東北の病院に入院しています。


まずこれまでの経緯ですが、弟が初めて白血病で入院したのは実は昨年のことです。

その際にも自分が骨髄移植のドナーになるかもしれないということで採血してHLA(白血球の血液型のようなもの)の適合検査を受けました。その時はHLAが完全に適合することが前提で、適合確率は25%ということでしたが、適合することはありませんでした。

正直な気持ちを言うと、適合せずホッとした部分もあります。

もちろん弟の命がかかっていることですから、移植したくないと言うのは冷たいと思われるでしょうが、自分の体への負担を考えたらやはり恐怖心がありました。

結局私が適合しなかったことで弟は抗がん剤治療を続けたのですが、病院曰く「なぜか」寛解したとの話があり、その時は無事退院しました。


しかしその半年後、今から1ヶ月ほど前ですが、退院後に行っていた定期検診で再発の兆しが見られたとのことで弟は再入院となりました。

最初は前回同様に抗がん剤治療を行っていましたがやはり移植が必要となり再び私にドナーとして白羽の矢が立ったとのことです。

今回はHLAが全部一致しなくてもよい、ハプロ移植という方法で行うそうで、再度私は適合検査を行うことになりました。

2度目の適合検査の前に、移植コーディネーターという方から電話があり、移植は骨髄移植でなく採血をして白血球だけを取り出す方法でやること(骨髄移植に比べドナーの負担が少ない)、そのために白血球を増やす注射をドナーには毎日打たなければならないこと、健康診断も含めて一週間くらい通院、入院をしなければいけないことなどを聞きました。

コーディネーターの方はとても親切な印象で説明も丁寧でした。ドナーの気持ちや状況を優先することもきちんと伝えてくれて、その上で進めてくれるとのことでした。

自分はとにかく適合検査を受けることは了承し、検査キットを自宅に送ってもらうよう伝えました(今回は採血でなく口内細胞を摂取し検査をするため病院まで出向く必要はありませんでした)。
現時点で結果は出ておらず、また適合確率も個別の事情で推測できないようです。
なので、これから書くことについては適合したらという前提の話です。



読む方は不快に思われるかもしれませんが、再び私がドナーになるかもしれないと聞いた時には絶望的な気持ちになりました。
やはり不安が大きく、弟の心配よりも自分のことで頭がいっぱいでした。
今も心の中では弟に助かってほしい気持ちと、適合検査で不適格になって欲しい気持ちの両方が混在しています。
弟とは仲は特別良くはありませんが悪くもありません。一般的な関係というものはわかりませんが、普段お互いに連絡を取る事もないが私が実家に帰って顔を合わせれば、少し話すこともある、という程度です。


移植に関する不安だけでなく、現実的な負担についても色々考えました。
私自身結婚しており、子どもこそいませんがやはり自分だけの問題ではありません。妻に移植するかもと伝えると特に反対はしませんでしたが。
さらに、一週間ほどの休みを今年はもう取れないという問題もありました。
休暇がもうほとんど残っておらず、それ以上休めば自分が退職するまで30年以上、毎月少しずつ給料が本来もらう分よりも少なくなる、という状態です。
お金と弟の命とどちらが大切なんだ、と良識ある方なら怒りを感じるかもしれません。
しかし、自分にとっては自分の今後も弟の命もどちらも大事なのです。何を犠牲にしてでも弟を助ける、という判断は正直できません。

当然、上司や人事の部署には弟の状況を説明し、何か使える制度や良い方法はないか一緒に考えてもらいましたが、結局解決法を見つけることはできませんでした。
そうした状況の中で、自分がドナーになることの決意ができたとはまだ言えません。

ネットで探したドナー体験談の中には親族のドナーになった話もいくつかありました。
みな最初不安はあったものの「適合して嬉しかった」「家族を救うことができたことに対する喜びがある」と前向きに語っています。目に入るのは美談ばかりです。多くの方はそうした気持ちになるのかもしれません。

ただ、私はそうはなれなかった。


兄弟のドナーに選ばれるというのは辛いことです。
どんな事情であれ、断れば兄弟はもちろん、両親や親族から恨まれることでしょう。またそれを知った周囲の人からも批判をされると思います。
ドナー向けのパンフレットや移植に関する団体のHPなどには必ず「ドナーの気持ちや状況が最優先であること」「移植のための提供は誰にも無理強いされるものではないこと」が書かれています。
しかし、そうした周囲の見えない圧力の中で、拒否できる人がどれほどいるでしょうか。

私は今の状況になるまでドナー制度についてほとんど何も知りませんでした。
骨髄バンクを通じて見知らぬ人に移植を行う場合には、ドナー休暇制度が認められている企業があります。私の勤め先にもあります。さらに、自治体によってはドナー休暇を取得した人やその勤め先に助成金が給付されるところもあります。
しかし、身内への移植についてはそうした補助が一切ありません。休暇は有給休暇を使わざるを得ず、金銭的な補償もなく、全てはドナーに選ばれた人間の善意に委ねられています。
家族なのだから、助けるのが当然ということなのでしょうね。

ここで主張しても仕方がないことですが、移植への精神的・身体的負担や社会的負担に対して補償がなく、なおかつ断れば家族との関係に亀裂が入るという状況で移植をする/しないの二択を迫られるというのは果たしてドナーの気持ちや状況を最優先すると言えるのだろうかと疑問に思ってしまいます。

念のため、これはコーディネーターさんに対する批判ではありません。あくまで現状の制度に対する話です。前にも書きましたがコーディネーターの方はよく話を聞いてくださって、病院とのパイプ役として最善の方法を考えてくださってると思います。


ちなみに、コーディネーターの方を通じて病院に対し休暇が取れないことや来年に入れば休暇が取れるのでその間放射線治療等を行い移植を待ってもらうことはできないのか聞いたところ、「それは移植をしたくないということか」と受け取られてしまったようです。病院からすれば移植は早いほうが良いし患者の容体が第一ということでしょう。その立場は理解できます。ドナーの権利は蔑ろにされているとも感じますが。
おそらく客観的にこの話を聞く人も、少なからず病院と同じように移植に同意しないことに苛立ちを覚えるだろうと思います。


患者の方がこのブログを読んだら悲しい思いをするだろうというのは想像できますが、身内のドナーは何の支援もなく、批判と不安に耐えなければいけない状況にあるということは書いておきたいと思いました。
自分の気持ちの整理だけでなく、自分と同じように身内のドナーになることに対し前向きになれないことへの罪悪感、孤独感に悩む人のためにも。


また状況が進展したら更新したいと思います。